昭和50年(1975年)、7月13日。島根県出雲市大社町の港で釣りをしていた男性が、水面に漂うヤシの実を見つけました。自宅に持ち帰って数日経つと、しだいに表面が乾いて文字が浮かび上がります。そこに書かれていたのは、「昭和十九年七月十日 所原 陸軍伍長 飯塚正一君」という文字。出雲市には「所原」という町があったため、男性は人づてに飯塚さんを捜し当て、ヤシの実を渡しました。
でもそれが誰から送られたものなのか。送り主はすぐには見つかりませんでしたが、やがて同じ村出身の山之内さんのことを思い出します。家を訪ねてみると、すでに空き家になっていましたが、さまざまな奇跡が重なり、山之内さんの奥様と再会。ヤシの実に書かれた文字は、フィリピンで戦死した山之内さんの筆跡と重なったのでした。
戦時中に山之内さんが流したヤシの実が、31年かけて海を渡り、書かれた文字が消えることなく郷里の海にたどり着き、さらには家族の元へと届けられたという、なんとも不思議なお話。まさに奇跡としか思えないヤシの実なんです。