くだんびより

観光、グルメ、楽しむ、おまいりする。
靖國神社と九段周辺の情報をお届けする情報サイト。


遊就館 特別展「いななき」第一回:馬を通して、近代日本の歴史を学ぶ

特別展「いななき」の看板に描かれた白馬

第1回は、従軍した馬たちを通して、戦時中の姿を想像してみましょう。

遊就館の1階、特別展「いななき」の入口です
遊就館の1階、特別展「いななき」の入口です

とある解体業者さんからの電話が生んだ、軍馬の展示

この展示が生まれたきっかけは、神社への一本の電話だったそうです。

とある解体業者さんが、取り壊し予定のお宅を片づけていると、屋根裏から古びた紙の束が出てきたそうです。何気なく開いてみると、それは、戦争中に馬たちを戦地へ送り出したときの記録でした。

なんてことない記録資料。でも、捨ててしまうには忍びない。でも自分で持っていてもどうしようもない。——そう思った施主さんが解体業者さんを通して「神社にこの文書を奉納したい」とご連絡をくださったのです。

そのようなことがきっかけで、「令和8年の午年の特別展示は、馬に関する展示にしよう」ということに。屋根裏で眠っていた紙の束は、時を超えて展示ケースの中で光を浴びることになりました。

「うちにも馬がいて、戦争に行った」

かつて、戦争の時には、農家で飼われていた民間の馬も徴用ちょうようされ、検査を受けて戦地へ送られていきました。展示には、その馬を検査するとき使った道具の箱まで残っています。ふだんの暮らしにいた馬が、ある日、戦地へ——。

展示を見に来た方のなかには、「うちにも馬がいたけど、戦争に行った」というエピソードを、小さい頃にお祖父さまから聞いたことがある、と思い出す方もいるそうです。

軍馬を検査するときに使った、道具の箱
軍馬を検査するときに使った、道具の箱

近代日本における、軍馬

日清・日露戦争から大東亜戦争が終わるまでに戦地へ送られた軍馬ぐんばは、およそ100万頭にのぼるそうです。馬を使った戦いといえば、戦国時代のイメージだったので、「たったの100年、150年前でもそんなにたくさんの馬が使われていたのだな」と意外に思いました。

もともと日本の在来馬は体が小さく、足も速くなかったそうです。そこで明治のころから、国をあげて体格のよい馬へと改良を重ねていったそうです。それでも足りなくなると、さきほどの検査の箱を用いて、農家の馬も集められました。

馬のお仕事もさまざまでした。人を乗せて走る馬、大砲を曳く馬、弾薬や食料を運ぶ馬……。トラックがまだ十分になかった時代、ぬかるみや山道を進んでいける馬は、どうしても欠かせない存在だったそうです。

あるお父さんのはがき

軍馬ぐんばとは少し異なる文脈で、馬にちなんだ御祭神ごさいじんの展示がありました。一宮周之いちのみや ちかゆき命という御祭神が遺した、一枚のはがきです。

出征する前、幼い長男を兵庫県西宮市にあった遊園地「阪神パーク」へ連れて行き、馬に乗せてあげたことがあったそうです。

戦地へ発ったあと、馬を見るたびに、その日のわが子を思い出しては、はがきをしたためていました。まだ小さな息子に宛てて、やさしいカタカナで綴られた「オウマ」のお話。そこには、「ハンシンパークデノリマシタネ」の一文が添えられていたそうです。

まぎれもなく誰かの「お父さん」だったのだと、感じる展示でした。

金メダリストと、愛馬ウラヌス

映画「硫黄島いおうとうからの手紙」でも描かれた御祭神ごさいじん・西竹一にし たけいち命もご紹介します。

昭和のはじめ、ロサンゼルスオリンピックの馬術の競技で、愛馬ウラヌスとともに金メダルを獲得された方で、「バロン西」の愛称で知られた方です。人と馬がひとつになったような、それは見事な騎乗だったと伝わります。

その西命も、のちに戦車隊を率いて硫黄島へ向かいました。そして激しい戦いのすえに、命を落とされました。硫黄島へは、オリンピックで使った長靴を持って行かれたのだとか。

「バロン西」こと西竹一命と、愛馬ウラヌス(展示パネル)
「バロン西」こと西竹一命と、愛馬ウラヌス(展示パネル)

還らなかった馬のたてがみ

戦地では、たくさんの馬もまた、命を落としていきました。神職の方によると、兵士のなかには、亡くなった愛馬のたてがみを切り取り、形見として持ち帰った人もいたそうです。

苦楽をともにした相手が、人ではなく馬であっても──その別れは、きっと同じだけつらいものだったのでしょう。

亡くなった愛馬のたてがみを、形見に
亡くなった愛馬のたてがみを、形見に

馬たちに、手を合わせる場所

靖國神社の境内けいだいには、「戦没馬慰霊像せんぼつばいれいぞう」があります。兵士とともに戦い、かえらなかった馬たちを慰霊いれいするための像で、昭和33年(1958年)に奉納されたものだそうです。すぐそばには、「軍犬慰霊像ぐんけんいれいぞう」と「鳩魂塔きゅうこんとう」も並んでいます。

そして毎年春には、馬・犬・鳩をあわせた合同の慰霊祭いれいさいが営まれ、人とともに戦地へおもむいた動物たちに、祈りが捧げられているそうです。

午年の今だから

午年の今だからこそ、馬と人の歩みに、ゆっくり目を向けてみてはいかがでしょうか。

新着記事

ページトップ